貝類(KAIRUI)

鳥貝の握り寿司の画像
鳥貝の握り

鳥貝の握り

【握り寿司: 貝】
鳥貝(トリガイ)は、黒い色素が鮮やかに残っているものほど鮮度がよく、身に厚みのあるものが最上とされる。やわらかな身を噛みしめると、独特の風味とクセのない上品な甘みが広がり、多くの食通を魅了してきた。

活けのトリガイは生でも食べられる。生では磯の香りやみずみずしい風味を楽しめる一方、軽く湯通しすると身が締まり、甘味がより際立つ。そのため、寿司店では軽く湯通しして握ることが多いが、生ならではの風味を生かし、刺身や握りで提供する店もあり、どちらにもそれぞれ異なる魅力がある。江戸前の伝統的な仕事では、湯通しした後に甘酢(酢に砂糖や塩などを混ぜ合わせて作る、甘みを強めにした合わせ酢のこと)にくぐらせてから握るのが定番である。

トリガイは資源量の年変動が大きいことで知られる二枚貝で、漁獲量は年によって大きく増減する。その背景には、産卵後の幼生がどれだけ生き残って稚貝まで成長するかに加え、水温や塩分などの環境要因が関係していることが報告されている。また、寿命が比較的短いことも資源量の変動を大きくする一因と考えられている。さらに、低酸素に弱く、貧酸素水塊が発生すると大量死することもある。

こうした性質から、市場では漁獲した海域の海水を入れた水槽に浸し、エアーポンプで酸素を送りながら管理される光景がよく見られる。取り扱いには細心の注意が必要である。トリガイは低酸素に弱く、さらに殻が非常にもろいため、生きたままの長距離輸送が難しい。そのため、貝類としては例外的に、産地で殻をむいてボイル加工した状態で市場へ出荷されることが多かった。

しかし近年では、殻付きで生きたまま流通する「活けトリガイ」も普及し、すし職人の仕事の幅は大きく広がった。ただし、活け物は仕入れから仕込みまで徹底した鮮度管理が欠かせない。鮮度が落ちると味が損なわれるだけでなく、トリガイの特徴でもある黒い色素が剥がれやすくなるためである。もともと黒い色素は非常に取れやすく、殻から外した後はガラス板などを使って滑らせるように丁寧に処理する。

活けトリガイは、産地でボイル加工されたものに比べて甘みと瑞々しさが際立つ。噛むほどに特有の甘みが口いっぱいに広がり、やわらかさの中にしなやかな弾力とシャキシャキとした心地よい歯応えを楽しめる。鮮度の高さが生み出す繊細な風味と食感は、活け物ならではの大きな魅力である。

かつては江戸前(東京湾)産のトリガイが絶品と評されたが、東京湾の埋め立てなどによって漁獲量は大きく減少した。現在は三河湾や瀬戸内海などの産地が高く評価されており、冷凍品の多くは韓国産や中国産が流通している。

【トリガイの生態】
鳥貝は陸奥湾から九州にかけて分布し、水深10~30mくらいの砂泥底に生息する。殻には40本ほどの溝が放射上に走っていて、溝には毛が密集している。見た目が鳥のくちばしに似ていることから鳥貝の名がついた。

2月に韓国産や大阪湾が出始め、3月になると三河、伊勢湾、6月にはトリガイ養殖で国内最大の出荷量を誇る舞鶴の鳥貝が出回る。

【トリガイの旨み成分】
トリガイの旨味は主に グルタミン酸(約 1,400 mg/100g)によって生まれます。これは代表的な旨味アミノ酸で、食材の味に深みを与える。また、アスパラギン酸(約 950 mg/100g)は味のバランスを整え、グリシン(約 780 mg/100g)やアラニン(約 610 mg/100g)は甘味やコクに寄与する。さらに、イソロイシン(約 390 mg/100g)、リジン(約 670 mg/100g)、プロリン(約 450 mg/100g)なども含まれ、その他のアミノ酸(セリン、トレオニンなど)と合わせて、トリガイ特有の豊かな味わいを作り出している。

【トリガイの栄養成分】
トリガイは低カロリーで高たんぱくな貝で、100gあたりのエネルギーは86キロカロリー、たんぱく質は12.9gと豊富です。脂質はわずか0.3g、炭水化物は6.9g、コレステロールは22mg含まれています。また、ビタミンB12は約10.1μg、ナイアシンは約3.7mg、鉄分は約2.9mgと比較的多く含まれており、疲労回復や貧血予防に役立つ栄養バランスの良い食材です。

【トリガイの目利き】
大きさで味の差はない。むき身は紫黒色の艶のよい肉厚のものが新鮮である。殻付きは表面の色が濃く、黒っぽいものが良品である。

【トリガイの蘊蓄】
寿司屋では、赤貝やトリガイをまな板に叩きつけたり、手の上で叩く職人がいる。これは、叩くことによって貝の身がきゅっとしまり、歯応えが良くなるからだ。

【トリガイの漁法】
底曳網、貝桁網など

【トリガイの基本データ】
分類:マルスダレガイ目ザルガイ科トリガイ属
学名:Fulvia mutica (Reeve,1844)
地方名:トンボ、カワトリガイ、トリゲ
由来:足の部分が、鳥のくちばしに見えることからきている。

(2026年7月1日加筆)

主産地

愛知 東京湾 大分

名産地

富津 三河湾

4~6月