【握り寿司: 光り物】江戸の海(現在の東京湾)で獲れた新鮮な魚は、江戸前寿司の材料として使われていました。その一つが「イボダイ」です。イボダイは、懐石料理では古くから重宝されてきた旨味豊かな魚だが、寿司ネタとしてはあまり見かけない存在である。余分な水分をほどよく抜くことで旨味が凝縮され、しっとりとした身質に脂のコクが重なり、口に含むと丸みのある自然な甘さが広がる。
仕込みでは、皮つきで握る場合、皮をやわらかくして食べやすくするため、軽い酢締めにすることが多い。夏に旬を迎えるイボダイをほんのりと酢で締めることで、食欲が落ちやすい季節でも爽やかに味わえる握り寿司となる。イボダイのような白身魚を酢で軽く締める例は多くないが、脂ののった個体を選び、締めすぎないことが肝要である。皮が口当たりの邪魔にならないよう、「切りかけ造り」と呼ばれる切り込みを施すこともある。
また、軽く塩を振った後、皮目に熱湯をかけて粗熱を取り、皮を引いて生のまま握る場合もある。この場合は昆布締めにするのもよく、昆布の穏やかな旨味が加わることで、まったりとした脂の甘みと、酢や昆布のやわらかな輪郭が重なり合い、静かでありながら深い余韻を残す一貫となる。
江戸前寿司の光物として重要な物であったが、今では主に関西で使われ、関東では目立たない存在である。東京の市場などで「えぼだい」と呼ばれている。近年、その人気ゆえ、北米や南米に分布するPeprilusが、代用魚として輸入されている。
【生態】
疣鯛は、松島湾、男鹿半島以南の日本各地、東シナ海に分布する。体色は銀灰色でエラ蓋の上に不明瞭な黒い斑紋がある。全長は30cmほどになる。体表からねっとりした粘液を出し、これがバターを塗ったように見えることから英名はジャパニィーズ・バターフイッシュとなる。鮮度が落ちやすいので、主に開き干しになることが多い。
イボダイの仲間は世界に27種、日本近海には4種が分布しています。関西では「シズ」、四国や九州の一部では「マメダイ」などと呼ばれる。その仲間でよく知られているのはメダイです。ただ、メダイはかなり大きくなり、色も違い、体高も低いためそれほど似ているとも思えません。それよりもむしろ近縁のマナガツオ科のシズやオオメメダイ科のマルイボダイの方が外見はよく似ています。
【トレビア】
和漢三才図会には、嫗背魚という名称で記録されており、老女を意味する嫗(おうな)の屈んだ背に似ていることから、この名が付けられたといわれている。
【イボダイの目利き】
うろこが剝がれやすい魚で、店頭に並んでいるものはほとんどうろこがないが、ヌメリがあれば新鮮である。また、このヌメリが透明なもの。銀色がはっきりしていて、体色と黒い死班のはっきりしているのがよい。
【イボダイの漁法】
底曳網、定置網、刺網など
【イボダイの基本データ】
分類:スズキ目イボダイ科イボダイ属
学名:Psenopsis anomala (Temminck and Schlegel,1844)
地方名:エボダイ(東京、静岡県静浦)、ウボセ、ウボゼ(関西、紀州)、アゴナシ(千葉県銚子)、クラゲウオ(瀬戸内海)、シス(広島県)、マガイ(富山県)、ヨヨシ(京都府宮津)、ヨウオ(三重県)、バカ(高知県、愛媛県三島)、コタ(鹿児島県)
名前の由来:体側の黒褐色の斑点が、「イボオ」と呼ばれるお灸の跡に見えることから、その名が付いた。
(2026年5月9日加筆)