【握り寿司: 煮もの】一口に穴子と言っても、世界では20種類以上確認されている。その中でも寿司ネタに使われるのは、南日本を中心に生息する御殿穴子と黒穴子、そして最も寿司ネタに適していると言われるのが、真穴子だ。[|江戸前寿司|}店で、穴子と言えば、真穴子のことを指す。
昔から「穴子は江戸前に限る」と言われるように、今でも羽田沖の穴子は上物とされているが、数が少なく、あまり出荷されないのが実情。しかし、羽田沖以外の神奈川県金沢八景や小柴、千葉県木更津、富津などの東京湾の物も味はいい。穴子自体は北海道以南の日本全国に分布している。長崎県対馬や瀬戸内海でもよく獲れ、近年は韓国や中国からの輸入物も多い。
一年を通して美味しく味わえるネタだが、特に脂のって旨いとされるのが、6~7月。梅雨により川から養分が海中に流れ込み、それによって餌が増えるため、さらに美味しくなるという。ただこれは東京湾の江戸前の穴子の旬です。かつては東京の名店の多くが江戸前の穴子を使っていました。でも漁獲が減り品質にムラが出るようになったため、今は長崎県対馬産の穴子を使うようになっています。対馬の穴子の漁場は水深が深く水温が安定していて、季節によって品質があまり変わらないため使いやすいのです。また関西の寿司屋では、焼き穴子を握る一方、関東では煮穴子を握るのが一般的になっているというのも面白い。
江戸前寿司の元祖、華屋與兵衛が店を出した時には、寿司ネタとして蛤や車海老と共に、煮物として穴子が加えられていたという。このように江戸前寿司の初めからネタとして使われていたのだから、今もその仕込みには細心の注意が払われ、それゆえ店それぞれの味の違いが生まれている。
煮上がった穴子を口に入れればふんわりとろけ、上質な脂がやさしく舌を包み込む。塩で食べるもよし、甘いツメで食べるもよし。また握る際に軽く炙り、口の中が溶けた脂で満たされるのもよい。
体の真ん中にあるヘソ(肛門)を境界に頭を上(かみ)、尾の方を下(しも)という。脂ののりは上の方が強い。昔はよく動かすから下の方がうまいというのだが、これはどうか?!
そして「上は皮表、下は身表」ともよくいわれる。皮表とは皮目の方を上にして握ること。身表とは身の側を上にして握ることを指す。穴子は煮ると身ワレが出来がちで、その割れ目に煮ツメが入り、見た目が悪くなることがある。しかし身によほど割れ目が入っていない限り、上も下も、身表に握ることが多い。
【アナゴの主産地及びその時期】
小柴・羽田・子安・富津/4~8月
松島湾・表浜/7~12月
岸和田/6月
大田/5~8月
対馬/6~8月、10~12月
明石/8月
【アナゴの目利き】
身に弾力があり、表面のヌメリに光沢があるものは新鮮です。ところどころ色褪せているものは鮮度が落ちている。活〆したものは透き通るような黒目のものがよい。
【仕込み方法】
鍋に1斗の水、味醂180g、醤油180g、砂糖500gを入れ、穴子を入れる。火にかけ、煮たったらアクを取る。落し蓋をし、とろ火でじっくり30分間煮て、煮汁が冷めるまでそのままにし、味を浸み込ませる。その後、笊にあげて水気を取る。職人によっては、煮る時に脂ののり具合によって時間差をつけ、それぞれに最善な煮上がりを求めている。脂の少ないものは少しでも柔らかくするためにな長めに、脂が多い柔らかいものは短時間で煮る。生の穴子を触った時、厚み、弾力、身の色などで判断してグループ分けし、時間を鍋に投入するタイミングを替えるそうだ。又は一年を通して、同じ太さ、同じ大きさの物を仕入れ、味に差が出てないように気を配る寿司屋もある。
(2023年1月20日、加筆修正)
【アナゴの漁法】
底曳網、釣り、延縄、アナゴ筒(籠)など
【アナゴの基本データ】
分類:ウナギ目アナゴ科クロアナゴ属
学名:Conger myriaster (Brevoort, 1856)
地方名:トオヘイ(大分県)、ホシアナゴ(兵庫県)、ハカリメ(関東、和歌山県)、カリメ(関東、神奈川県)、トヘイ(千葉県)、ヨネズ(富山県)、タチウヲクラゲ(紀州)、ゴマ(山口県)、ビリス、ドテダオシ(鹿児島県)、ハモ(北海道、東北地方、山陰地方、北陸)、ホンアナゴ(神奈川県)、メジロ(三重県、名古屋)、メバチ(高知県)、ベースケ(伊予)、ハム(富山県)、ドグラ(有明海)、メジロ(愛知県)、キンリョウノメ(和歌山県田辺)、、ドテダオシ(鹿児島県)
魚名の由来:日中、岩穴や砂の中に、身を潜める生態から、その名が付いた。
【アナゴの代用魚】
「穴子の蒲焼き」や「煮穴子」といった加工品として首都圏のスーパーなどを中心に、幅広く流通するようになったのが深海魚イラコアナゴです。マアナゴの漁獲量が激減するなかで、「代用魚」として脚光を浴びるようになっています。