【握り寿司: 白身】鮃は千島列島以南から南シナ海など、太平洋西部に生息する。最大で全長約1m、体重約10kgにもなる大型魚である。
鮃は鯛と並んで寿司ネタの白身を代表する高級魚だ。ふわりと漂う品のある甘み、しっかりと弾力がある歯応えで、高い人気を誇っている。中でも冬の寒さが厳しい頃、最も脂ののった鮃は「寒鮃」として高値で取引される。しっかりと脂ののり、それでいて身の締まった冬の鮃は、さばくと身が透き通るような白身で極上の味わいだ。
鮃は鰈目鮃科の魚で鰈の仲間だ。「左鮃に右鰈」と言われるように、黒皮を上にして、腹を手前に置いた時に目が左にくるのが鮃である。食材として鮃は高級魚、鰈は大衆魚と言われ、実際食べてみても両者の旨みには歴然の差がある。もっとも最近では鰈の漁獲高が減少しており、星鰈などは超高級品として取引されている。
鮃は最も脂がのって旨い「寒鮃」が味わえる真冬を中心に晩秋から春先にかけてが、旬と言われる。一般的に鮃は千島列島以南から九州の沿岸が産地となるが、最近では活魚の状態で韓国から輸入されている。また養殖物も数多く、現在では旬に関わりなく、年間を通して味わうことができる。ちなみに、天然物と養殖物を見分けるには、裏側を見るとよい。天然物は裏側が真っ白だが、養殖鮃には黒い斑点があるので見分けるのは簡単だ。
いわゆる寒鮃が旨いのは、産卵直前で最も脂が乗っていることが最大の要因だ。鮃の産卵時期は産地の海水温によって左右されるため、目利きできる寿司屋は、その時期その時期で、最も脂ののった鮃が水揚げされる産地を追って仕入れている。また旨い鮃の大きさもある。鮃は最大1m程まで成長するが、最も味がよいのは、40~50cm、2kg前後の物だと言う。特に、身が厚く、張りがあり、美しい艶のあるものがいい。一方、秋口に獲れるソゲという鮃の幼魚(1kg以下)はさわやかな味が特徴で、こちらを好んで握る寿司屋もある。因みに体長50〜60㎝のもの (2kg以下)を大ソゲ、それ以上をヒラメと呼んでいる。
また鮃を扱う場合、身を壊さない包丁技術も大切だという。これは他の魚でも同様だが、特に鮃の場合、鱗が非常に細かいことから、通常の鱗落としではなく、包丁で削ぐようにして鱗を落とす。このため経験の浅い職人の場合、身に傷をつけてしまうことがあるという。せっかくの高級魚も、身に不要な傷をつけてしまったら、台無しというものだ。また鮃は仕込み後、旨み成分がゆっくり生成され、6~8時間後から食べ頃となるので、午前中に仕込みをし、夕方の営業に間に合わせる。通常、白身魚は完全硬直後に旨みが増えることはなく、締めてから2日間ほどが旨みと食感、みずみずしさのバランスがピークである。
鮃は生の握りや刺身で頂く他に、潮の香りが引き立つ昆布締めで味わうことも多い。素材の旨みを堪能する生か、職人の江戸前仕事を味わう、ほんのり飴色に染まった昆布締めか。カウンターで悩むのも、またこのネタの楽しみの一つだ。それと一匹から4本しか取れない貴重なエンガワに出合ったら、迷わず握ってもらおう。口の中がゆっくりと脂の甘みと旨みで満たされる至福の時が楽しめる。
【トレビア】
江戸時代の方言辞典「物類称呼」には「畿内、西国ともにカレイと称し、江戸にては大なるものをヒラメ、小なるものをカレイと呼ぶけれども、類同じくして種異也」とあり、当時は正確に区別する方法がなかったことがうかがえる。
【鮃の目利き】
エンガワや尾まで肉づきがよく、身が厚いものが上物です。下身より上身の方が味がいい。ただし、切り身は、血合肉が鮮やかな赤色のものがよい。
【鮃の栄養と効能】
高タンパク・低脂肪の白身魚の代表です。カロリーも魚類の中では比較的低い方である。カリウム、亜鉛、カルシウム、セレンなどのミネラルやビタミンD、Eもバランスよく含み、消化・吸収も早いのでお年寄りや病人用として最適だが、高価であるため病院給食などでは供されない。そして低脂肪の魚は旨みに欠けることがあるが、イノシン酸、グリシン、アラニン、タウリン、リジンなどのアミノ酸をバランスよく含み、とりわけ、旨みの中心となるイノシン酸が豊富なため、淡泊でありながらも濃厚な味わいである。
【ヒラメの漁法】
底曳網、底刺網、手釣り、曳釣、空釣縄など
【ヒラメの基本データ】
・分類:カレイ目ヒラメ科ヒラメ属
・学名:Paralichthys olivaceus (Temminck and Schlegel,1846)
・地方名:オオガレイ(山口県)、オオバス(伊勢)、カイワ、マガリイワ(有明海)、カルワ(青森県)、テックイ(北海道)、オオグチ(和歌山県、愛媛県、中国地方)、メビキ(富山県)、ヒダリグチ(周防)、メビキ(富山県)、ソゲ(千葉県、神奈川県)、ホンガレイ(和歌山県、徳島県)、オオグチカレイ(東北地方、関西地方)、オヤニラミ、テックイ(北海道)、バカガレイ(福井県)、ハタタガレ(鳥取県)
・魚名の由来:平たい、目が二つ並ぶので、「平目」と付いた。
【熟成に使うシート】
熟成の加減は難しく、魚の種類、大きさ、部位、個体差などにより、水分、脂の量、旨みの量が違う。状態を目で確かめ、吸水性や通気性などの異なるシートを使い分け、旨みをピークへもっていく。そこで使われるシートには、脱水シート、鮮度保持シード、キッチンペーパー、紙パーチ、ビニール袋、ラップなどがある。