【握り寿司: 光り物】
通常、「イワシ」と言えばマイワシを指す。漁獲量が多く、鮮度落ちも非常に早いため、かつては下魚(げざかな)として扱われていた。そのため、寿司ネタとして常にそろえる店は少なく、特に高級寿司店ではあまり使われてこなかった。
しかし、旬を迎えたマイワシの美味しさは格別である。産卵期を終えた冬場には脂質含有量が2〜3%程度まで落ち込む一方、夏から秋にかけては25〜30%まで増加する。特に梅雨時に水揚げされるイワシは、上質な脂を豊富に蓄え、口に入れるととろけるような濃厚な旨味を味わえる。
サイズによって呼び名が異なり、10cm前後を「小羽(こば)」、15cm前後を「中羽(ちゅうば)」、20cm以上を「大羽(おおば)」と呼ぶ。なかでも梅雨時に獲れる中羽のイワシは最高級品として知られている。
ただし、マイワシは鮮度の低下が極めて早く、小骨も多いため、仕込みには高い技術が求められる。小骨を丁寧に抜き、身を崩さずに仕立てるすし職人の手際が、そのまま味の完成度につながる。
また、イワシは鮮度が良くても、血合い由来の香りや脂の匂いが立ちやすい魚でもある。そのため、薬味の使い方にも工夫が凝らされる。おろし生姜やアサツキでさっぱりと食べるのも良いが、青ネギをシャリとネタの間に挟む仕事をする店もある。青ネギに含まれる硫黄系の香り成分がイワシ特有の香りをやわらかく包み込み、後味をすっきりと整えてくれる。
【イワシの生態】
イワシは世界に300種類以上存在するといわれ、日本周辺だけでも26種類が確認されています。その中でも特によく知られているのが、マイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシの3種です。
マイワシは、日本近海を中心に、日本海、黄海、東シナ海、オホーツク海、北西太平洋にかけて広く分布しています。沿岸から沖合の表層を大群で回遊する魚で、春から夏にかけては餌を求めて北上し、秋から冬には水温の低下に伴って南下しながら越冬します。産卵期はほぼ周年にわたります。
成長は比較的早く、1年で約15cm、2年で約18cm、3年で約20cmほどになり、最大で全長25cm前後まで成長します。体側には7つ前後の黒い斑点が並ぶことが特徴で、この見た目から「七つ星」と呼ばれることもあります。寿命は7年以上と考えられています。
また、マイワシの漁獲量には数十年単位で豊漁と不漁の周期があり、不漁期には価格が大きく高騰します。時には1kgあたり100米ドルを超える高値で取引されることもあります。
【イワシの料理】
三枚おろしは料理の用途としては刺身や天婦羅に、手開きはつみれや天婦羅などがより。イワシは脂が乗っているので、刺身にする場合は、身がでこぼこになる手開きの方が醤油がからみやすい、美味しく味わえる。
【トレビア】
古くから食用とされてきたが、平安時代には卑しい魚といわれ、宮中ではその塩糟が紫黒くなることから「御紫」と呼ばれていた。それでも、紫式部や和泉式部は鰯が好物だったため、人目を忍んで食べていたという。また、節分の時期には、鰯の匂いとヒイラギの棘が鬼を祓う魔除けになるといわれ、鰯の頭をヒイラギの枝に刺して戸口に立てる風習がある。
【仕込み方法】
仕入れたらすぐに氷水に漬け、直ぐに内臓を取って処理をします。イワシを塩や酢で締める行程は、皮を引いた時に皮目を美しく見せたり、余分な脂分を取って食べやすくする意味がある。面倒がらずに大切なひと手間を行うこと。その時に使う酢は生酢ではなく、水1対酢1の割り酢を基本とする。
【鰯の目利き】
体側に7つ以上の黒点があり、これがはっきりしているものや背の青みに光沢があるものは新鮮だ。逆に目が赤くなっているものは鮮度が落ちている。頭が小さく背側が張り出しているように見えるもの、尾のつけ根の細いもの、太っているものは脂が乗っている。
【マイワシの栄養と効能】
良質のたんぱく質も豊富だが、注目すべきは量と質。6月~7月に掛けて脂肪を豊富に含み、魚の中ではトップクラスとなる。脂肪を構成する脂肪酸のうち、酸化されにくい飽和脂肪酸、酸化されにくく動脈硬化を予防する一価不飽和脂肪酸、酸化されやすいが高脂血症などを改善する働きをする多価不飽和脂肪酸のいずれも豊富に含んでいる。血液を固まりにくくし動脈硬化を防ぐEPAや血圧上昇を抑えたりするDHAを豊富に含んでいる。カルシウム、マグネシウム、リンを富んでおり、いずれも歯や骨を丈夫にするには欠かせないミネラルである。ビタミン Dも含まれているので、成長期の子供や骨粗しょう症が心配な中高年女性は、積極的に食べてほしい食材である。貧血を予防する鉄分、味覚や嗅覚の機能を高める亜鉛も多い。脂肪やたんぱく質の体内での働きを助けるビタミン B2、B6、神経細胞の働きを助けるビタミン B12なども多い。
【イワシの漁法】
現在の漁法は、流し網、巻き網、定置網など。昔は地曳網、船で引く鰯網など
【イワシの基本データ】
分類:ニシン目ニシン科マイワシ属
学名:Sardinops melanostictus (Temminck and Schlegel,1846)
地方名:オイサザ、オオイワシ(長崎県壱岐、近畿地方、九州地方)、ギンムシ(高知県)、コチュウバ(千葉県)、ヒラ(宮城県)、ヒラゴ(大阪府、和歌山県、瀬戸内、高知県)、ヤシ(福島県)、ナナツボシ(東北地方、兵庫県明石)、ドオコ(越後)、ネコモリ(富山県)、ヒラレ(浜名湖)、カブダカ(紀州、三重県)、オラシャ(広島県)、コバ(福岡県玄海)、ヤマトミズーン(沖縄県)
魚名の由来:すぐに死んでしまう弱い魚であることの「よわし」が転じたとされる。
(2026年5月16日加筆)