【握り寿司: 赤身】鮪は身質によってトロと赤身に分けられる。トロは内臓を包んでいる腹側の身肉を言います。赤身は背側の部位に多く、トロに比べると脂分が少ない。
赤身には特有のコクがある。それはトロの部位に比べて、たんぱく質の含有量が多いことにほかならない。魚のたんぱく質に含まれる各種のアミノ酸と旨み成分であるイノシン酸の相乗効果が奥深い味わいをもたらす。トロのたんぱく質含有量は、20%にすぎないが、赤身には25%近くも含まれており、その差は歴然である。
鮪の赤身は、脂が少ないため、品質の差が味に表れやすい部位だ。極上の赤身には、ブロードのような滑らかな舌触り、上品な酸味に加え、ほのかな脂の甘みと芳醇な香りがある。これを生で握るか、醬油に漬けた「ヅケ」で握るかは職人の感性による。
ちなみに鮪の通と言われる人はトロよりも赤身の、しかも幾分赤黒くなったものを最高品と位置付ける。赤黒くなった理由は、初め鮮やかな赤色を呈している色素ミオグロビンが時間が経つと次第に暗赤色のメトミオグロビンに変化するからであり、味自体は劣化しているわけではない。この状態になると赤身を口に入れたときに唾液を吸い取って、舌にまつわりつく。しかも噛んだ時に、内部からじわりと呈味成分を含む汁が大量にしみ出してくるからである。鮪は漁獲したばかりは、硬いばかりでまったく味気がない。うまい赤身に仕立てるには、漁獲後少なくとも1週間、大型のものはそれ以上近くも貯蔵して熟成させなければならない。