【握り寿司: 赤身】
太平洋クロマグロは非常に獰猛な肉食魚で、成長段階や海域によってさまざまな生物を捕食する。日本近海では、イワシ類、トビウオ、サンマ、イカ類、小型のカツオやソウダガツオなどを主な餌としている。寿司職人や仲買人の間では、「どの餌を食べて育ったかで脂の香りや身質が変わる」と経験的に語られることがある。例えば、イワシを多く食べた個体は脂に甘みがあり、トビウオを多く食べた個体は身が締まり、香りがすっきりしていると感じる職人もいる。また、イカを多く食べた個体は旨味が強いと言われることもある。
なお、大西洋クロマグロは大西洋に生息する別種であり、遺伝子学的にも太平洋クロマグロとは異なることが分かっている。大西洋クロマグロは、サバ類やニシン類など脂の多い魚を多く捕食するとされ、脂が濃厚で重量感のある味わいと評されることが多い。ただし、一般の人が外見だけで両者を見分けるのは非常に難しい。
【太平洋クロマグロの生態】
日本で「本鮪」と呼ばれるマグロは、一般的には太平洋クロマグロと大西洋クロマグロの2種を指し、多くの場合は太平洋クロマグロを意味する。太平洋クロマグロは、沖縄・南西諸島周辺海域から台湾東沖にかけてを主な産卵海域としており、近年では、日本海南西部に加え、三陸沖周辺でも産卵を示唆する報告があり、新たな産卵海域の可能性として注目されている。産卵期は主に5〜7月頃で、周年産卵を行うビンナガやキハダとは異なる。
沖縄・南西諸島周辺海域〜台湾東沖で産卵する背景には、孵化した仔魚が黒潮などの海流によって餌の豊富な北方海域へ運ばれやすいことが関係していると考えられている。仔魚は日本近海で成長し、孵化後1年ほどで体長50cm前後、体重3kg程度になる。この頃までは、日本沿岸を夏に北上し、冬に南下する季節回遊を行っているとみられる。
さらに成長すると、一部の個体は北西太平洋を大きく時計回りに回遊し、なかには太平洋を横断してアメリカ・カリフォルニア沖からメキシコ沖まで移動するものもいる。現地では5〜10月頃がスポーツフィッシングのシーズンとして知られている。ただし、現在のところ、この海域で産卵することは確認されていない。太平洋クロマグロは南北に回遊しながら餌を食べて成長し、成熟すると再び太平洋を横断して日本近海の産卵場へ戻ることが分かっている。この強い「産卵回帰」の性質は、太平洋クロマグロの大きな特徴の一つである。