【握り寿司: 光り物】
江戸前寿司の伝統では、サンマを握り寿司のネタとして扱うことは邪道とされていた。しかし現在では全国の寿司店で広く見かける秋の定番ネタとなっている。
サンマの握りが普及した最大の理由は、戦後から高度経済成長期にかけて冷蔵技術と物流網が飛躍的に発達したことである。船上での冷却技術の向上や発泡スチロール容器の普及、さらに氷蔵輸送や航空輸送の発展によって、傷みやすいサンマでも水揚げ直後に近い鮮度を保ったまま全国へ運べるようになった。その結果、それまで難しかった生食や握り寿司としての提供が可能となり、寿司ネタとしての地位を確立していった。
サンマは酢飯との相性が非常に良く、脂の旨味と程よい酸味が絶妙に調和する。特に脂が乗った秋の生サンマは、身に飾り包丁を入れ、おろし生姜と青ネギを添えることで、その豊かな風味を存分に楽しむことができる。また、塩と酢で軽く〆ると余分な脂が引き締まり、まるで別の魚のような上品な味わいへと変化する。さらに、光り物が苦手な人や子供には皮目を軽く炙る食べ方も人気があり、香ばしさが加わることで食べやすくなる。
サンマの本来の旬は秋である。しかし寿司業界では、漁が解禁された直後の夏場に北海道で水揚げされる「走り」のサンマが特に珍重され、高値で取引される。これは小型船による操業で魚へのダメージが少なく、鮮度や品質が優れているためである。その後、灯火を利用した大規模な漁が始まると流通量が増え、価格も比較的手頃になる。
もともとサンマは安価な大衆魚として親しまれてきた。しかし近年は乱獲や海洋環境の変化などによる資源量の減少に加え、世界的な和食ブームによってサンマを提供する日本食レストランが増加したことから需要が高まり、かつての大衆魚から高級魚へとその位置づけを変えつつある。
【サンマの生態】
サンマは北太平洋に広く分布し、東部に生息する群れはアメリカ西海岸にも出現する。日本の太平洋側を回遊してくる群れは、夏の終わりから初秋の頃に、親潮に乗って南下する。冬には九州南方まで回遊するが、その後、反転して黒潮に乗って北上する。
サンマの脂質含量は北海道東方沖では多く、9月の太ったサンマでは21%に達する、脂質は皮下組織に多く含まれる。この脂ののった秋刀魚の塩焼きは、秋を代表する味と誰もが認める。脂質は南下するにつれて成熟と産卵に消費され、産卵が始まると脂質含量は5%以下に減り、皮下組織の脂質はほとんどなくなる。
その後産卵を終えて晩秋から初冬にかけて三重県沖に南下してくる。この地域で漁獲する頃にはサンマの脂肪がほぼ落ち、姿もほっそりしてあっさりしている。丸干しにしても油焼けしにくく、サンマの姿ずしや馴れずしなどの日持ちする加工品にも適している。
なお秋刀魚にはペンネラという寄生虫が表皮に付くことがある。人体には影響ないようだが、これが別名「ひじき虫」と言われるように、黒い紐のようでグロテスクだ。秋刀魚には貴婦人のような美しさがあるだけに、ボロをまとったようなペンネラは不似合いである。
【サンマの栄養成分】
サンマは良質なたんぱく質を豊富に含み、生100gあたり約18.5〜19gで、必須アミノ酸をバランスよく含む完全たんぱく質源です。脂質の面では、DHA 約1,400〜1,700mg、EPA 約650〜890mgと高い含有量があります。ビタミン類も豊富で、ビタミンB12 4〜10µg、ビタミンD 3〜8µg、ナイアシン 4〜7mg、ビタミンB6 0.2〜0.4mg、ビタミンA(RAE)20〜50µgが含まれています。またミネラルでは、鉄分 1.2〜2.0mg、カルシウム 25〜140mg、リン 200〜270mg、カリウム 350〜500mgが含まれています。
【サンマの目利き】
身がよく締まり、尾まで太っているものがよい。頭の後ろが盛り上げり、全体的に丸みがあり、口端の黄色なのは脂がのっている証拠である。鮮度落ちしたのは、尾びれの真中の黄色が変色している。尾を持った時、体が曲がらずにできるだけピンとしているものはよい。冷凍物は目が白いのが特徴です。
【サンマの漁法】
江戸時代には、サイラ網が普及。明治時代には、流し刺網。戦後は、集魚灯を利用した棒受網が主流となる。それと面白い伝統的な漁法があり、つかみ取り漁と言います。
【ブランドサンマ】
釧路の「青刀サンマ」、厚岸の「大黒サンマ」や「一本立ち歯舞サンマ」
【サンマの基本データ】
分類:ダツ目サンマ科サンマ属
学名:Cololabis saira (Brevoort,1856)
地方名:サイラ、サエラ(関西地方、南紀地方、高知県、長崎県、鹿児島県)、カド(三重県)、サヨリ(富山県、石川県、和歌山県、愛知県)、サヨラ(京都府)、セイラ(長崎県壱岐)、バンジョ(新潟県佐渡)、サザ、マルカド(鳥羽)、サイリイ(大阪)、サイロ(三重県)、ダンジョウ
魚名の由来:体の細さ「狭真魚(さまな)」と表したことからきている。
(2026年6月2日加筆)