【握り寿司: イカ・タコ】
烏賊は種類によって旬が異なり、味わいや食感にもそれぞれ個性がある。その特徴を最大限に引き出すため、寿司職人は烏賊ごとにさまざまな江戸前仕事を施す。
ケンサキイカの握りでは、身質に応じて短冊状に包丁目を施し、食感や口当たりを調整する。こうした仕事によって身と酢飯のなじみが良くなり、ケンサキイカが持つ甘味と旨味もより感じられやすくなる。
実際に、ある寿司職人は2種類の烏賊の握りを提供しているが、そのうち一方には常にケンサキイカを用いている。理由を尋ねると、甘味と旨味のバランスに優れ、何より後味が良いからだという。実際に食べ比べてみると、それぞれの烏賊の個性は明確であり、素材の特徴を見極めて使い分ける職人の仕事の奥深さを感じさせる。
もっとも、スミイカとケンサキイカを例にとっても、優劣で語れるものではなく、それぞれ異なる魅力を持つ。スミイカは軽やかな甘味とシャープな旨味を特徴とし、ケンサキイカは密度のある食感と穏やかな甘味を備える。酢飯との相性についても、酸味の度合い、シャリの温度、ネタの状態などさまざまな要素が関わるため、一概にどちらが優れているとは言えない。最終的には、それぞれの持ち味をどのように引き出すかという職人の考え方や技術によるところが大きい。
【ケンサキイカの生態】
ケンサキイカは本州中部以南、東シナ海、南シナ海から東南アジア、オーストラリア北部の沿岸・近海域に分布する。胴長40cm以上になる。産卵期は4~10月で、春と夏と秋に産卵のピークが見られる。寿命は1年。
生まれた季節や生息場所で体形に違いがあるため、産地や市場では様々な名称で呼ばれている。細長いものは、「ケンサキイカ」、「アカイカ」など。太いものは、「シロイカ」、「ブウドイカ」などと呼ばれる。また関東ではアカイカ、西日本ではシロイカと呼ぶが、この東西での呼び方の違いと、別に赤イカという種が存在するため、しばしば混乱が起こる。
【ケンサキイカの旨み成分】
ケンサキイカの旨みは、遊離アミノ酸(グリシン、アラニン、プロリンなど)に加え、ATP分解によって生じるヌクレオチド(AMPなど)、さらにグリコーゲン由来の糖が複合的に関与している。特にグリコーゲン量が比較的多く、その分解によるわずかな甘味が味わいに奥行きを与える点は、アオリイカにも共通する特徴である。
【トリビア】
職人の中には、一度3枚におろしてから薄く引き直し、さらに糸造りに仕上げることで、身の構造を整え、口溶けを高める技法を用いるすし職人がいる。特に森田一夫が営む小松弥助では、このイカへ
の仕事が象徴的に用いられており、店を代表する技法の一つとして知られている。
【ケンサキイカの基本データ】
分類:ツツイカ目ヤリイカ科ケンサキイカ属
学名:Uroteuthis (Photololigo) edulis (Hoyle,1885)
地方名:アカイカ(関東地方)、ブドウイカ(日本海沿岸)、シロイカ(山陰地方)、ゴトウイカ(九州地方)
由来:頭の先端が尖がっていて、剣のように見えるため、剣先烏賊と呼ばれる。
(2026年6月10日加筆)